橋本 治
集団を二つに分け、そこに陳腐に優劣をつけて物事を考えてきた日本人像がある。鎖国/開国、天皇/幕府に始まったわけでもないが、近代化をはじめた時点を起源と考えると、アジアで唯一侵略されなかった国=日本は「日本型の近代化」という歪な成功をおさめて二分化を正当化している。 「勝ち組」という言葉は「負け組」という言葉の上に成り立つ相対的なもので、相対化することでしか存在できない価値自体が嘘なのではないかと、つらつらと述べる。 国内にも国外にも日本にとってのフロンティアがなくなってしまった現在、それでも帳簿の上で経済成長を続けなければならない市場原理は、「勝ち組」という言葉をつくることで何とか成り立っている、とする。 「勝ち組」は「負け組」の住む土壌をマーケットと見立て、そこにフロンティアを見出して帳簿上の利益をあげる。「負け組」が「勝ち組」を崇める前提は経済的面からみただけの価値観でしかない。その仕組みを「市場原理は嘘かもしれない」と副題で述べているが、的を得た解釈の本であった。 「乱世を生きる」という書名が意味するのは、武士の世に突入する室町後期の戦国時代に現代を例えて、ある1つの時代が終わっていく日本への挽歌としている(のだろう)。これは著者、橋本さんの日本人一般に対する一貫した手向けの精神なのだとも思う。つまりは、このばかげた状況を看取って、成仏させていこうと。 本書の中でも「日本の世襲制度はどうやって消えていったか」の章が一番興味深い内容であった。
by ssnostalgia
| 2006-01-11 13:00
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